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えどさんごくし

江戸三国志

吉川 英治

「報知新聞」報知社、1927(昭和2)年10月~終号未詳

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 577,271 字 · 1141 页

青空文庫

千蛾老と久米之丞

「左様でございます。何しろ、熱海へおいでになる前には、拙者が旅中でございましたから、あれ以来とするともう半年近くに相成ります」

卓をはさんで、窮屈そうに前にいる男は、この裏山の背村に住む、関久米之丞とよぶ旧家の郷士。

久米之丞は醜男だが腕が強い。

いかにも武蔵野育ちらしい野性と精悍さをその顔骨にあらわして、長い朱鞘と何流とかの剣法は彼の得意としているところ。

年はまだ三十になるまいが、粗野な性格を無理に抑えて、もっともらしい会話をしながら、一言一句にも、千蛾老人の信用をうることを忘れていません。

ことに。

月江や次郎が留守のうちは、一日置きに、この狛家を訪れて、御隠家様の千蛾老人の機嫌をとり結び、何かの相談にもあずかるので、自然今では、召使いをはじめ彼自身も、ここの家族同様な気持でいるらしい。

「ウウ……もう半年も会わんか」

「入湯の効で、定めし、見違えるほど御壮健になったことと存じます。何と申しても人間は健康第一、これでなくてはいけません」

と、黒鉄のような、自分の腕をたたいて見せる。

「久米之丞様は、相変らず人斬りがお好きかなどと、月江も、よくあちらからの手紙の端に書いて来おッた」