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えどさんごくし

江戸三国志

吉川 英治

「報知新聞」報知社、1927(昭和2)年10月~終号未詳

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 577,271 字 · 1141 页

青空文庫

山岳切支丹族

所詮、この一筋の本道をまっすぐに走ったのでは、男の足にかなうわけがない。それに、素足の痛みにも堪え得ません。

振顧ると影が見える――すぐ一曲り上の道に。

「お蝶ッ」

その声が近い頭上に聞こえたので、彼女は横の細道へ駆けこみました。

そこはいちめんなる篠の海で、こまかい篠の葉が肩まで体をかくしてくれます。とは言え、その篠の波をくぐってゆくそよぎは、上からも明らかに見てとれるわけですから、この道必ずしも安心ではないのです。

果たして、暫く行って振顧ると、うしろの方からザッザという篠の戦ぎがして、抜手を切って泳いで来るような日本左衛門の影。

(この道が断崖の上で尽きたら、私はどうしたらいいんだろう?)

お蝶はそう恐怖せずにはいられない。

ただ、さっきよりいくらかましなことは、このいちめんな篠が生えているために、自分も自由に走れないが、追う者も宙を飛ぶわけにはゆかないことです。従って、その足どりの速度に於ても、男女の差がすくなく、この篠のつづく限りは、同じ間隔をもっていられるだろうと思いました。

が――その安心もつかのまです。遂に来る所まで来てしまうと、案のじょう、道は深い断崖のふちで恨めしくも途切れている。