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えどさんごくし
江戸三国志
吉川 英治
「報知新聞」報知社、1927(昭和2)年10月~終号未詳
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 577,271 字 · 1141 页
老賊
「九兵衛ッ」
「ま、もう少し聞いて下さい。まだあなたは私を充分に疑っておいでなさる。この狸が、何をいうかと、半信半疑のお気もちでございましょうが、最前はあの物蔭に、伊兵衛と馬春堂のやつが音をひそめておりましたので、わざとああした傍若無人なまねをして、ここまでお誘い申したわけです。――そして何をおつつみしましょう、あっしは正真正銘の大盗ッ人、秦野屋九兵衛という兇状持ちには相違ございませんが、十七年の昔をさかのぼれば、尾州名古屋の富の小路に御槍組頭で七百石をおとり遊ばしていた相良勘解由様を御主人としてつかえていた仲間の九兵衛です」
「えっ、では其方は尾州表で、拙者の父相良勘解由につかえていた仲間だったか」
「その頃から悪事に悪事をかさねて、隣屋敷の納屋倉にまで盗みの手をのばし、ツイそれがばれて首になるところを、あなたのおやじ様の情けで、逃がしてもらったのがお別れでございました」
「ウーム」
と金吾は茫然たるばかりで、艱苦をへた老賊の深い皺に幼時の記憶をよび起こそうと一心に見つめました。
そこへ、あつらえ物の膳が来ましたが、軽く銚子をとる体を見せて女中を遠ざけた後、ついだ盃も手にとらずに、九兵衛はなおも話しつづける。