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えどさんごくし

江戸三国志

吉川 英治

「報知新聞」報知社、1927(昭和2)年10月~終号未詳

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 577,271 字 · 1141 页

青空文庫

夜光朝光

「忝い」

と、万太郎が、ぽんとそれへ飛び込んだ途端です。

「やっ、あなたは!」

愕然とした声で、舟の二人は着ていた笠と蓑とをかなぐり捨てました。

「オー、そちは釘勘と、高麗村の次郎ではないか」

「万太郎様とは少しも気がつきませんでした。して、どうしてこんな所に?」

「いや、仔細は後に話そう。――それよりはこの舟で、そち達はどこへ行こうという考えじゃ」

「実は少し心当りがあって、ゆうべから夜通し、このお茶の水を漕ぎ廻っていたのですが、夜が明けたので、桐畑の家へ帰ろうとして参ったところです」

「では、わしと一緒に、根岸の方へ来てくれぬか。そこへはやがて金吾も落合う約束になっている」

「いろいろ申し上げたい事もございますから、すぐにお供を致しましょう」

「だが、舟は」

「紅梅河岸の番屋へ預けてまいります」

互いに聞きたいことも積っていますが、そこでは要談もムダ口も制して、舟から上がると駕を雇って根岸の下屋敷へ急がせました。

そこへ着くと、次郎は誰より真っ先に、屋敷の庭へ駈け込んで行く。そして、

「お嬢様! お嬢様! 万太郎様がお帰りでございますよ」

ありッたけな声で月江の部屋へ向って呶鳴る。