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えどさんごくし
江戸三国志
吉川 英治
「報知新聞」報知社、1927(昭和2)年10月~終号未詳
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 577,271 字 · 1141 页
大盗の恋
なんなら、一服進ぜようか」
「もう売りつけにかかっていやがる。おあいにく様だ。ここには、人一倍鼻のきく人間ばかりそろっている」
ところへ、何かピチピチとはねる水桶をさげて、薄暗い庭先へ顔を出した寺男の八助が、
「方丈様、やっと目っけて来ました」
「あったか、鯉が」
「大きなやつを、三匹ばかり仕入れて来ましたが、なんに致しますかね、こいを」
「どれどれ」
と、法達も四ツ目屋も、縁先へ出て水桶をのぞきながら、
「なるほど、いい鯉だ」
「おことばに甘えて、あっしは洗いにねがいたいね」
と、新助がいうと、雲霧が、
「おれは鯉こくを注文するぜ」
「寺へ来て、お茶屋へでも行ったようなぜいたくを言いなさんな」
「じゃ方丈様、造作はありません。両方に振分けてつくりましょうか」
「ウム、御苦労だがやってくれ。そのまに、おれは膳の方を出しておくから」
法達が庫裡の方へかけこむと、八助は庭先の流れへ、すぐ、出刃とまな板を運んで来て、鯉の作り身にかかっています。
何を考えているのか、寺の水で鯉の血が洗われているのを眺めて、日本左衛門はひとりでクスクスと笑っている。
「おや、本堂の方で、人声がしやしねえか」