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えどさんごくし
江戸三国志
吉川 英治
「報知新聞」報知社、1927(昭和2)年10月~終号未詳
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 577,271 字 · 1141 页
七男坊
「そうじゃろう」
「ところが、よいあんばい、一ツの突き傷は浅く、一ヵ所はかすり傷の程度でございます。ただ出血おびただしく、そのため昏倒していたものと診断して、手当を加えますと、果たして、結果はまことに上乗で、まあ半月も過ぎましたら元の体となることは請合い。――と申しましたが、怪しからん話で、夜半怪我人をかつぎこんで来た者どもは、その時いつのまにやら、ひとり残らず立ち去っております」
「ほう、置いてきぼりか」
「左様な次第で」
「不埒な奴どもではある」
「しかし、あとで話を承ると、それは当の怪我人と何らの縁故なき旅人どもであったそうで、あとに残って付添うているのは、まだ年の少い次郎とよぶ僕ひとりでございます」
「ウム、その童から、素性を聞いて、初めて驚いたと申すのじゃな」
「御明察の通りにございます。彼――次郎が申しますには、このお方は、徳川万太郎とおっしゃる御身分の高い人、もし療治の届かぬ時には大変なことになる、どうか、そのつもりで充分に――などといい出してまいりました。しかし実を白状いたしますと、この玄堂も、初めは一笑に付していたのでございます。ところが、日を追うにつれて、仔細に御所持の刀や印籠などに目をつけますと、まぎれもない尾張中将様の三ツ葉葵、ことに隠されぬ御人品は、まことに疑う余地なき御三家のお血筋とお見上げ