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えどさんごくし

江戸三国志

吉川 英治

「報知新聞」報知社、1927(昭和2)年10月~終号未詳

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 577,271 字 · 1141 页

青空文庫

楽屋銀杏

そこに、例のお粂も落着いていました。

丹頂の姐御も、元を思えば、近頃はまったく尾羽を打ち枯らしたものです。藍気のさめた浴衣にさえ襟垢をつけている旅役者の残党に交じって、曲独楽の稽古をやらなければならない境遇。

腹では涙をこぼしているかも知れません。

「どうだいお粂さん、少しゃあ板について来たかい」

こういって、時々部屋へ様子を見に来るのは、でっぷりした興行元です。

「まだどうもねえ……」

「うまくいかないのかい」

「不器ッちょだからなかなか覚えきれないんですよ」

と、お粂は気がくさるように、独楽の紐を丸めて投げ出しました。

「師匠の教え方がいけねえんだろう、どうせ見物の目をごまかす仕掛独楽だのに、そうむずかしいことはねえ。どれ、廻してみねえ」

「まだ衣紋流しがうまく行かないんでね」

「衣紋流しだの吹上げが出来りゃあ、独楽廻し一人前だ。前芸に扇の峰づたい、針金渡し、それに何かちょッとしたものが出来りゃ沢山だ、それで後は連中の持ち合せの芸当と鳴物で囃し立てりゃあ、なアに、木戸の開かないことはないさ。どうだろう明日でも」

「え、明日から小屋を打つんですか」

「ビラばかり景気よくはり出してあるんでどうも世間ていが持ち切れない。