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えどさんごくし

江戸三国志

吉川 英治

「報知新聞」報知社、1927(昭和2)年10月~終号未詳

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 577,271 字 · 1141 页

青空文庫

蛇身妖蠱

は、かれと伊兵衛の間に、まぬかれそうもありません。

さて。

塀の上に取ッついている道中師の伊兵衛。

「夜光の短刀」

こうつぶやいてニヤリとしました。

「――おれが探し当てて、日本左衛門の鼻をあかしてやったら、あいつら、泥棒の神様へ対しても、渡世をやめて坊主になるかも知れねえぞ」

空想は愉快です。

仕事を昂奮させます。

あいにくか、幸いか、今夜は七日ばかりの月がある。

ジッと、そこから下の足場を見下していた伊兵衛は、ススススと、腹にも短い足が何本もあるように、塀の峰をすべるが如く這い出しましたが、

「あっ? ……」

何か驚いて、突然、山屋敷の内側へと、もんどり打ってその影を消す。

けれど、どすんと、不器用な音もさせないし、今の素早さ、跳躍の軽さ、まことに、あぶな気ないものです。

蛇身妖蠱

きょうが音羽の護国寺では、蟹清水の開帳日。

日和はあたりました。

歳時記では今を水温むの時と申しますが、鐘にも春の温みがある、嫋々としてあたたかな、耳朶温い開帳の鐘の音、梅見がてらの人出と共に、朝から絶えまもありません。

「おお、あいにくな人出だな」

どこか気品のある侍です。