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えどさんごくし
江戸三国志
吉川 英治
「報知新聞」報知社、1927(昭和2)年10月~終号未詳
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 577,271 字 · 1141 页
片輪の鷹の羽
どこだ火の手は?」
地廻りのあとについて、その横丁の溝板をふみ鳴らして来た浴衣がけの人間があります。
それを見つけると、櫺子の首や、格子先に飛びだしている女どもが、騒ぎはそッちのけで、
「あら、先生」
「太夫元の先生」
「曲独楽の小屋にいる易者の先生」
「先生ッてば」
「寄ってらッしゃいよ」
鬼灯を舌に浮かせてさえずりました。
軒なみの女たちから、いろいろな名称をもってよばれた浴衣がけの先生なる人は、呼び声だけでもう説明は要しません、馬春堂です。
帯の前に手ぬぐいをはさみ、口に小楊枝をくわえているところを見ると、さしずめ今朝は、お粂の興行している小屋から朝湯に出かけて、この附近で一本かたむけていたものか、あるいは、この先生のことだから、どこかそこらの白粉地獄で安価な一夜を買っていて、今の声に驚いて飛び出して来たものか、そのへんのことは馬春堂先生の評価に少しも影響のないことですから、まあどッちでもいいとしておきましょう。
けれど、お粂の嵐粂吉が、この甲府の柳町の小屋を打ってまだ日の浅いうちに、先生が安価な折花攀柳をやったのは、あらそい難い事実であると見えまして、