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えどさんごくし

江戸三国志

吉川 英治

「報知新聞」報知社、1927(昭和2)年10月~終号未詳

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 577,271 字 · 1141 页

青空文庫

逃水の果てへ

どうしてといえば。

それも石神様だけが知っていたこと。いや、神通力のない釘勘でも万太郎でもが、もう少しあとに残って様子をうかがっていたら、必ず、同じあやしいものを見たにきまっている。

足音が遠のいたかと思うと――すぐその後です。

ふと気がつくと、いつの間にか、威厳おそろしき石神の首が変っている。

立兵庫にきらめく銀の簪が一本、うりざね顔の全体は、夕顔の花より白く縁がとれて、そっと、石神のうしろから立つと、その肩越しに、前の暗い穴をのぞいたのが――まるで石体の無名神そのものの首が代ったかと見えたであります。

「ばかだねエ」

丹頂のお粂はひとりで笑っていました。

逃水の果てへ

その翌朝――夜が明けると同時のことです。

耕作に出る毎朝の通りがけに、きまって石神堂のまわりを掃除する土地の百姓が、

「おや、落とし物がある……」

堂の前に、泥だらけとなっていた振分と菅笠を見つけ出し、不審そうに見廻すと、ぬれ縁には蝋燭の痕だの、あたりには狼藉な足痕だのが、何か異状のあったことを、まざまざとそこに描いていました。

「大変だ!」

おそるおそる喜連格子をのぞいた途端に、吹っ飛ぶように馳けて行った男の声が、やがて後方の畑から、土着のたれかれを寄せ集めて来て、