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えどさんごくし
江戸三国志
吉川 英治
「報知新聞」報知社、1927(昭和2)年10月~終号未詳
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 577,271 字 · 1141 页
鬼女面
が、それには、目もくれないで、
「――少し頼みたいことがあって、実ア四ツ目屋から御迷惑でもつけて来たんだ。ねえさん、一ツおれに、案内をしてくれまいか」
「……案内ッて? ど、どこへですか」
「それがわかるくらいなら……」と思わず含み笑いをもらして、
「知っているのは、お前だけの行く先だ」
「? ……」
「四ツ目屋へ持ってきた伊太利珊瑚、あれは、どこからおめえ持ち出して来た。なみの屋敷や町家の土蔵じゃあるまい。あれ程の品がある穴なら、まだまだ、存分、金目な品が埋ずまっているはず、案内してくれというのはその穴だ」
かの女がカッとした一時の熱い動悸は、まぶかな編笠の顔をのぞくにつれて、ようやく刃を抱かされたような冷たい身ぶるいに変っています。
鬼女面
「どこだ? お前の家は」
「知りません」
「自分の家を知らない?」
「だって、あたし」
「じゃ、あの伊太利珊瑚はどこにあった品物だか、それを言え、その屋敷の名を聞かせろ」
「知らない。あたし、そんなこと……」
「シラをきるな」
「私、人に頼まれたんだもの」
「うるせえッ」
「…………」
「案内しろ!」
「いやです」
「ウム、じゃ仕方がねえ。夜どおしでも、お前の帰る所へついて行くだけの話だ」