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えどさんごくし
江戸三国志
吉川 英治
「報知新聞」報知社、1927(昭和2)年10月~終号未詳
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 577,271 字 · 1141 页
やけのやん八
もういやだいやだ、だれがなんと言ったッて御免だよ。きょうかぎり嵐一座は散り散りばらばらになるんだから、太夫元にもきっぱりと断っておくれ――。なんだい、じゃ前貸しの給金を返せっていうのかい、強慾も程におし、十日の小屋を七日まで割れるほど売ッていりゃ沢山じゃないか。それで不承知ならどうにでもしておくれ」
注いでは飲む茶碗酒の勢いが、あたるべからざるものと見て、太夫元を代表して懸合いに来た遊び人態の男も、啖呵負けがしたようにほうほうのていで引きさがりました。
そこは、例のお粂の家ではなく、今日から看板を外すと騒いでいる掛小屋の楽屋であります。
それも、ゆうべ小屋がハネてからずっと泊っているわけではなく、夜更けてからお粂は常のごとく――。
いや常よりも機嫌よく女弟子や男衆を連れてぞろぞろと引揚げたのでありますが、帰ってみると留守中でのあの始末。
一同の驚きかたと、それから先の騒ぎは言わずもがなでしょう。町内の会所へ届け出るやら太夫元が来るやら、検視の役人や岡ッ引が調べに来るやらして、寝るどころではない一夜を明かしましたが、お粂はその間に蹌踉と元の楽屋へ帰って来て、はたの者が、