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えどさんごくし
江戸三国志
吉川 英治
「報知新聞」報知社、1927(昭和2)年10月~終号未詳
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 577,271 字 · 1141 页
赤い櫛の女
そして中に交じっていた龍平は、入れ札を手にとる時、チラと、お蝶の方へ目をやりましたが、かの女の素知らぬ顔は横に向いて男のうしろ姿さえ心にかけぬふうでした。
入れ札が終ると、一同は役宅を出て、各の長屋や住居へ戻ってゆく。そして、あとには勘解由と腹心の者だけが残って、一室を閉め切り、その入れ札を開くこととなりましたが、二十七枚の多くは、
(誓って存じ寄り無之)
という札ばかりです。
仲間の龍平が入れた札も同様でありました。
ところが、最後に開いたお蝶の入れ札を見ると、それには優しい文字で明らかに、官庫破りの盗賊を内から手引きした下手人の名として、
お小屋番のもの龍平。
と、かれの名を指した文字があらわれて出ました。
赤い櫛の女
遠いところの昼の三味線――
松の内の町を流す女太夫の糸でもありましょうか、例のけだるい稽古三味の調子はずれでもなく、撥の冴えと申すほどな鋭いさばきとも違って、なんとなく心を和まされる長閑な三絃の音が、張りたての障子紙を透して、ちょうどいい程度の音階に聞えてきます。
枕元には、白茶の柄糸に赤銅ごしらえという柳鞘の了戒一刀と、同じ作りで吉光の差し添。