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えどさんごくし
江戸三国志
吉川 英治
「報知新聞」報知社、1927(昭和2)年10月~終号未詳
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 577,271 字 · 1141 页
魔のさす辻
と、無理に梯子段を降りてゆくと、かれは金吾の腕を抱きこむようにして、庭の植込みから木戸を押して、湯気のさまよう湯町の辻へ駆けだしました。
魔のさす辻
誘い出してというよりは無理やりにして、金吾を外へ引ッ張り出した釘勘の組下手先の伝吉。
どこへ連れてゆくのやら、浜町のお成橋。
そこを一散に北へ上がる。
たった一度の湯治お成に万金の工費をかけて、そのまま建ちぐされとなっている将軍家のお湯浴御殿や諸侯の湯荘など、築地なまこ塀の建ち並ぶ小路をスタスタと話もせずに急いで、やがて小高い岡に仰がれたのは、老杉参差として神さびた湯前神社の石段であります。
のぼるとそこは広前の暗、拝殿に一炊の御明しがさびしく。
梅が香もわくや
出で湯の春のかぜ
と、也有の句の刻まれてある石碑のかげに、その時人影がうごいたようですが、それは問うまでもなく最前から、使いの吉左右いかにと、ここに首を長くしていた釘勘で、近づく足音を聞くとすぐに、
「伝吉か」
と、楠の木を楯にうかがいました。
「オオ、親方」
「どうした、相良さんは」
「やっとの事で、ここへお連れ申して参りました」
「えッ、一緒にお出でなすったって。