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もめんいぜんのこと

木綿以前の事

柳田 国男

木綿以前の事「女性」1924(大正13)年10月、何を着ていたか「斯民家庭」1911(明治44)年6月、昔風と当世風「彰風会講演」1928(昭和3)年3月、働く人の着物「旅と伝説」1936(昭和11)年7月、国民服の問題「被服」1939(昭和14)年5月、団子と昔話「ひだびと」1936(昭和11)年3月、餅と臼と擂鉢「社会経済史学」1934(昭和9)年1月、家の光「家の光」1926(大正15)年2月、囲炉俚談「文学」1935(昭和10)年3月、火吹竹のことなど「知性」1939(昭和14)年4月、女と煙草「ひだびと」1939(昭和14)年2月、酒の飲みようの変遷「改造」1939(昭和14)年2月、凡人文芸「短歌研究」1934(昭和9)年2月、古宇利島の物語「短歌民族」1933(昭和8)年5月、遊行女婦のこと「俳句研究」1934(昭和9)年4月、寡婦と農業「農業経済研究」1929(昭和4)年10月、山伏と島流し「俳句講座」1932(昭和7)年8月、生活の俳諧「第一高等学校講演」1937(昭和12)年12月、女性史学「実践女学校講演」1934(昭和9)年7月、女性史学「民間伝承」1936(昭和11)年3月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 177,586 字 · 348 页

青空文庫

火吹竹の発明は是に対する援助であったが、或いは土地によっては十分にその恩沢に浴せぬうちに、また次のホクチや附木・燐寸の時代に来てしまった家もあるかと思う。しかしこの火を吹くという古式は、ちょうど燐寸の排斥と同じように、そう簡単には棄てられてもしまわなかった。たとえば年越や節供の前夜には、特に清い火をこしらえて翌朝の神供を調える料にいけて置き、または正月中は同じ火を続けるために、節榾などという太い薪を使う処もある。それへ上手に灰を掛けて、朝は真赤な燠になっているようにして置く事が、今でも家刀自の技倆であり、また威望の根拠でもあるごとく見られていた。背戸から隣の家へそっと火を借りに行くなどということは、勿論もう必要の無いことであるが、それでも昔大歳の夜おそく、火種を絶してしまった新嫁が、途法にくれて門に出て立っていると、遥か向うの方から炬火が一つやってくる。この棺桶を預かってくれるならば、火を貸そうと謂ったというような昔話がまだ残っている。ようやく火を貰ってその棺桶を納戸に匿して置いたのを、正月になってからそっと開けて見ると、中には黄金・白金が一ぱいという類の、人が夢見得る限りの美しい空想が是に続いたのである。