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えどさんごくし

江戸三国志

吉川 英治

「報知新聞」報知社、1927(昭和2)年10月~終号未詳

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 577,271 字 · 1141 页

青空文庫

見ると、鼠木綿の宗服を着たのが、虚無憎とみえますが、蠅をうけた以上、無論、掛絡も天蓋も剥ぎとられているので顔はさらしている。

それは、雲霧の仁三と四ツ目屋の新助で、一番どんじりに、屠所の羊のように引っ張られて来たのはお人好しの率八です。

「入牢です。入牢です」――釘勘の組のものは、揚屋の境でしきりと怒鳴っておりましたが、右往左往のとりこみかたで、暫くそこで身動きもなりません。

「あっ、親分……」

と、率八が、右側の板じきの上に、医者の手当をうけて仰臥していた日本左衛門を見て、いと悲しげに叫びました。

「おう、率八か」

日本左衛門も気がついて、ガバと向うで身を起こしながら、

「や、雲霧も四ツ目屋もか」

「親分……」涼しそうに二人は目礼して、

「とうとう、来る時節がやってまいりました。小塚ッ原へ着くまでは、どうかお達者でお暮らしなさいまし。いずれ、お話は獄門の上で寝もの語りにいたしましょう」

「ばかを言え、おれはまだもう少し生きのびるつもりだ。いろいろ娑婆に未練があって、どうもこのままじゃ往生ができねえ」

こう言って、ニッと笑うと、聞きつけた同心が駆けて来て「これッ」