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えどさんごくし
江戸三国志
吉川 英治
「報知新聞」報知社、1927(昭和2)年10月~終号未詳
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 577,271 字 · 1141 页
「え、相良様。あなたがここで御短気をなすったら、あと、万太郎様の御勘気はどうなりましょうか。出目洞白の仮面がお屋敷へ返らぬうちは、あの方の御勘当におゆるしも出ないばかりか、一朝二之丸の御能があるひになると、尾州の大殿様としても将軍家へ申し開きの立たない破滅になるというお話――こいつを聞いちゃア釘勘のような町人風情でも、目先の功名や岡ッ引根性をすてて、一肌ぬがなければなるまいと柄にもない乗り気になっているんです。――だのに、ましてや万太郎様付きで禄を食んでいたお前さんが、ひっ腰もなく、ここで腹を切って、人より先に楽な方へ廻ろうなんてえ考えは、あんまり虫がよすぎやしねえか。あっしにいわせれば、侍ってやつが、何かというとすぐ自害して、それで立派に言い訳が立ったと思っているのぐれえ、卑怯な、ばからしいことはないと思う」
痛烈です、雄弁です。
町人の見解としても、そこに多少の真理はある。
ことに万太郎の境遇を考え、最初に自分が屋敷を出た目的を思い合せれば、かれのことばを待たずとも、金吾は、何としてもここで死なれた自分ではありません。
といって――
ああ、そうかといってまた、生きておめおめと万太郎の前へ、どうこの姿で会えるものか。