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えどさんごくし
江戸三国志
吉川 英治
「報知新聞」報知社、1927(昭和2)年10月~終号未詳
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 577,271 字 · 1141 页
ことに、血気一図な若さと場なれのした老練との差は、時ふるほど格段な差をあらわし、相良金吾たとえ意気はどれほど熾んなりといえ、病後の気息ヤヤもすると乱れがちに、汗は鬢毛に油としたたり、目は血走り、唇はかわき、タジ、タジ、タジ……あとへあとへと斬り立てられて来たのはまことに是非もないわけ。
おお、その顔は死相です。生ける色ではありません。日本左衛門が揶揄するとおり、かれが戸田流の必死な防ぎも無益か、どう贔屓目に見ましても金吾の一命、ここにあやうしと見えました。
が――
幽明を境するその間一髪。
バラバラッと日本左衛門の顔へ向って、突然、霙のごとき風が打つかる。
「あッ……」
目つぶし!
砂!
お粂です。
横に廻った丹頂のお粂が、男の危機にわれを忘れて、つかんだ砂の目つぶしです。
消えなんとした生命の火がパッと明るくなったように、攻守顛倒の形となる。
しかし、それで金吾が相手を逆地に墜とすわけにはゆきませんでした。その時、一艘の舟が小半丁程あなたの磯岩の間へドンと着いて、
「やッ、親分じゃねえか」
と叫び合うや、ひとり残らず、舟の中からおどり上がッて、わッとここへ馳け出してくる様子。