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えどさんごくし

江戸三国志

吉川 英治

「報知新聞」報知社、1927(昭和2)年10月~終号未詳

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 577,271 字 · 1141 页

青空文庫

「……もうこんなになったかなあ」

と、日数を先に勘定して、また書出しの方からボツボツ黙読しはじめましたが、

「ウーム……自分で読んでも、これはなかなか面白い、一つ、江戸へ帰る日があったら、これを版木にかけて、書屋から出してやろうかな。――売れるぞこいつは。これは読本としても随筆としても事実話としても面白い。実際自分が出会ったことだからな」

こういう時に、助かるものは空想です。

「版にして出すとしたら、書名をなんと名けようか。馬春堂怪遊綺譚か、まずいな、桃源夢物語、とすると人がほんとに思うまいし……武蔵野あやし草、これも面白くない、いっそ、馬春堂日記、ふん……それでもいいな、梅花堂流の易学者馬春堂先生、文筆もなかなか立ちますぞなンて、一ぺんに、名は売れ出すし、洛陽の紙価ために一時に高し……」

――ところへ、郷士風の男がふたり、一人は膳を持ち、ひとりは銀の銚子を用意して、杉戸の口から現れ、

「お客人、さだめし御退屈なことでござろう」

馬春堂は起き上がって、あわてて行儀を直し、天神髯を撫しながら、

「おや、もう御飯時ですかな」

「山家のこと、いつも珍しい御馳走もございませんで」