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えどさんごくし
江戸三国志
吉川 英治
「報知新聞」報知社、1927(昭和2)年10月~終号未詳
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 577,271 字 · 1141 页
見るとそれは、やはり日本左衛門の手下のひとり、尺取の十太郎です。
それがまた、前に来た新助と同じように、店の者の目をぬすんで、そッと、一本の封書を託して帰っていく。
「ははあ」
と、九兵衛はやっと思い当ッて、
「おれの家の奥に、日本左衛門が潜伏しているので、手下の奴らは表向きに訪ねて来ることもならず、たばこ売りに化けて、つなぎを取っているのだ」
案の定。
それからも千束の稲が来る。雲霧の仁三が来る。そのほか、有名無名の白浪たちが「目ざまし草」の胴乱をかけ、たばこを仕入れに出入りします。
しかし、人出入りの多い秦野屋の店、わずかな品を仕込みにくる「目ざまし草」の行商も、この者達ばかりではありませんから、店の手代や丁稚も、べつにそれを不審とも思っていません。
が、不審は九兵衛の胸にあって、どうも、こう頻繁に奥と世間でつなぎをとっているところを見ると、奥にいるあの二人は、ただ江戸から足を抜くばかりの目的ではなく、何かほかに仕事をもくろんでいるものに違いない。
こう考えて、九兵衛ある一日、
「兄貴、さだめし退屈だろうな」
それとなく、二人の腹をさぐりに、奥の座敷へ茶をのみに来ました。