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えどさんごくし
江戸三国志
吉川 英治
「報知新聞」報知社、1927(昭和2)年10月~終号未詳
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 577,271 字 · 1141 页
「知らないね」
「青梅の博労さんも話していた。昨日だったか、甲州から来た飛脚屋も、その通り魔に殺されかかったという話だったよ」
「……そら、お客様が御飯じゃないか」
「おい」
と、両手を出すと、万太郎は首を振って、
「茶をくれい」
「お客さん、もうお仕舞かね」
「うム、たいそう馳走になった」
「遠慮をしない方がいいぜ、家の父ンはあんまり好くないけれど、おっ母あは、旅の人にも親切なんだぜ、もう一杯おあがんなさい」
「もう沢山じゃ。……ところで今の話だが、それは近頃の事か、それとも、前から左様なうわさがあるのか」
「いいえ、ついこの頃の噂なんです」
「して、その通り魔というのは、どんな姿をしているのじゃ」
「さあ? ……」と次郎は小首をひねッて、
「だれもそれを、側でよく見た者はねえし、おらも出会ったことがない」
万太郎が何か考えこんでいると、次郎は母親と辺りを片づけながら、まだしきりと、帰らぬ父の身を心配している。
あの心のねじけた片目の半五郎でも、次郎にとれば、またなき父親と恋われるのでしょう。町屋の某が戸板に乗せられて行った死骸の連想から、果ては居ても立ってもいられない様子。