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えどさんごくし
江戸三国志
吉川 英治
「報知新聞」報知社、1927(昭和2)年10月~終号未詳
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 577,271 字 · 1141 页
という囁きが交わされだした。抜け買いの手から出るなら分っているが、こんな伊太利珊瑚の生地が、どうして誰の手から出たのかと、その売り手を怪しむ者の目が、やがて、隅の板場に胡坐をくんで、ジャワ更紗の山に肘をつきながら、煙草をくゆらしている日本左衛門と四ツ目屋の新助を見出して、
「ウウム、相変らず、うめえ仕事をするな」
と、感じ合っている顔つき。
そして、符牒の呼び値が懸りだすと、伊太利珊瑚の値は一躍百両を越えて百五十両の台になり、さすがな、買い方も呆ッけにとられて口を緘んでしまったと思うと、金吾のうしろから、肩越しに白い手がのびて、見事、これだけのけいず買いが寄りつけない値で、それを引き取った女があります。
こんな世界にも女が交じっているのかと、金吾が、珊瑚の買主をうしろに物色してみると、どれもこれも目ばかり光る物騒な顔の中に、たッた一人、きわだって白い女の瓜実顔が、かれの視線を受けとって、
「あら――」
といった調子に、馴々しい媚をたたえて迎えましたが、金吾には、夢々おぼえのない女なので、
「はてな?」
と思ったまま見つめていると、女は前の二、三人を抜けてきて、押されるように背中へピッタリと寄りついたかと思うと、なまめいた髪油の匂いが、金吾の耳の辺に蒸れるばかりに、