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えどさんごくし

江戸三国志

吉川 英治

「報知新聞」報知社、1927(昭和2)年10月~終号未詳

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 577,271 字 · 1141 页

青空文庫

久米之丞はもう盲目です、情炎の獣です、こういうきッかけが出来た以上、彼がつつしみ抑えていた常識も、一時に火となって、すさまじい醜熱の力が、月江の肉をむさぼりにかかりました。

――月江は声かぎり人を呼ぶ。

逃げては捕まり、起きては引きずり倒される。ああ、誰かここへ来てくれないか、ここへ来てこのいやらしい奴を懲らしてくれる人はないか。

彼女はまた、久米之丞に組み敷かれながら、目を閉じて念じましたが、高麗村郷士きっての猛者、この男の力には、さすがの月江も及びません。

でも、二、三度は、必死に男を跳ね返し、あるいは投げつかわしつして、逃げられるだけ逃げのびましたが、のがれて行く先は落葉松の疎林で、いよいよ人通りの僥倖も望まれないさびしさ。

「次郎――次郎や――ッ」

疎林をつんざく月江の声。

ここで次郎の名をよんでも、次郎が救いに来るわけはありませんが、彼さえ居たらば――と思う念がせっぱつまッて、思わずそう呼ばせたものでありましょう。

「月江ッ、月江ッ」

久米之丞は呶鳴りながら、逃げ廻る彼女を追って、疎林のうちを駆けめぐっていましたが、もう見得も外聞もない情炎の獣に、なんの仮借がありましょうか、