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えどさんごくし
江戸三国志
吉川 英治
「報知新聞」報知社、1927(昭和2)年10月~終号未詳
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 577,271 字 · 1141 页
八王子千人町の夕暗から、絶えず、この二人が背後にいたことを気付かなかった不覚が、まったく久米之丞の禍いの因をなしていました。しかしそれも、今は及ばぬこととなって、死骸となった血みどろな彼の五体は、金右衛門の足の先から、月江のあとを追って同じ谷底へと顛落して行きます。
「金右衛門、何かあったか」
と、日本左衛門がそれに振向くと、
「ウム……小銭のはいっている紙入れが一つ」
返辞はしません。
日本左衛門はただ苦い顔つきで――
金右衛門は死骸から取り上げた幾つもの品のうちから、その紙入れを撰って谷底へポンと捨てて、次に、
「――白扇が一本。こんな物もしようがねえな」
と、それも抛り捨てながら自問自答に、
「懐紙、銀ぎせる、印籠、みんなろくでもねえ物ばかりだが、この懐紙の間にこんな、いたずら書きがしてある……」
「どれ」
と、初めて日本左衛門が手を出しました。
それは、ほんの心覚えだけに、久米之丞が懐紙へ書きつけておいたものらしく、
羅馬人ピオ――鶏血草――終焉――山岳切支丹族――蜻蛉屋久助――逃水組――王家の秘宝――痣――武蔵野――夕顔城――赤城――秩父――不明。