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えどさんごくし
江戸三国志
吉川 英治
「報知新聞」報知社、1927(昭和2)年10月~終号未詳
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 577,271 字 · 1141 页
見ていると――帯は長く尾を曳いて喬木の梢に懸り、そのあまりは、枝から地上へ、旗の如くダラリと垂れ下がりました。
なんと、美しい謎。
いたずらにしては風流すぎる。
と、思いながら、白ずくめの行人姿は、しばらく呆気にとられていました。いうまでもなく、彼は相良金吾です。
ゆうべ真夜半に、下頭小屋を飛びだした金吾は、あれから、どう道を取り違えたものか、この小仏の低地へ迷い込んで、目ざす仮面の女をいまだに見ることが出来ずにいました。
「はて……あれは?」
女、女、女、女――と胸に仮面の女を呼び探しているところへ、偶然、まことに偶然、空から舞って来た女の帯。
金吾にとっては、実際、妙な心地がしたでしょう。
彼の目には、実際、妙な謎とも見えたでしょう。そして、これは何か、人智を試む山の精のいたずらに出会っているのではないかという錯覚さえ起こしました。
しかし、いくら見直しても、その歴然たることは、若い女の帯であることです。派手な柄の織物に相違ないことです。
「不思議な? ……」
幾度も同じ思案をつぶやきながら、その一端に手をかけて、ズルッと引いてみますと、帯は大蛇のように地にすべって、彼の手に小さく巻かれてゆくのでした。