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えどさんごくし

江戸三国志

吉川 英治

「報知新聞」報知社、1927(昭和2)年10月~終号未詳

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 577,271 字 · 1141 页

青空文庫

「え。おれたちの商売かい?」

と、これには、ちょっと返辞に困って、ただニヤニヤと笑っていると、焚火の仲間に割りこんで、じょうだん口をたたいていた雲霧の前で、突然、ポーンと火薬でも投げ込んだような音がしました。

「あっ」

と、四ツ目屋までびッくりして飛び上がると、漆掻きは、いちどきに笑って、

「旅の衆、栗だよ、栗をくべてあったのだよ」

雲霧の仁三ともあろうものが、焼栗におどろかされて飛び上がるなどは、近ごろの大出来だと、かれも共に、自分で自分を囃したいような苦笑にくすぐられました。

「焼けた、さ、旅の衆、栗をたべねえか、この辺の栗は、つぶは小さいが甘みがある」

と、漆掻きの男どもは、人にもすすめ、自分たちも灰の中から栗をかき出して、皮をむき合っている。

「ひとつ、御馳走になろうか」

四ツ目屋の新助も手を出して、

「ウム、こいつは甘い」

と、他愛がありません。

その間に、秦野屋はどうしたろうかと振顧ってみると、かれは、お蝶のかごの側で、鼻寺の法達に頼んで雇って来た四人のかごかきと、何かしきりにいい争っている様子に見える。

一挺のかごに四人のかごかきがついて来たのは、山越えには、是非その予備として必要な肩代りです。