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えどさんごくし

江戸三国志

吉川 英治

「報知新聞」報知社、1927(昭和2)年10月~終号未詳

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 577,271 字 · 1141 页

青空文庫

「もう助からねえ」

駄目だ――という観念の方が濃くなって、逃げ出そう、助かろう、とする焦躁や気力は、日ましに燃えとぼれて来たのは事実です。

気力が枯れて、諦めの世界にはいると、退化的な解脱がはじまる。寝ても寝てもスウスウと眠りつづけられて、その状態があたりまえになってくる。

ふと眼をさました時です。雲霧の足もとに、大きな海鼠のようなものがグンニャリとしている。

「新助……か?」

「お」とも「ううん」とも言わないので、足を上げると転がりました。で、雲霧がさわってみると、やはりこいつもよく寝ています。

「誰だろう?」

そう思ったが、見るよしもありません。

「この中には、おれ達のほかにも、まだ随分人間が居るようだが……」と、何気なく撫で廻してみると顔がある。

顔があるのにふしぎはないが、新助の顔ではありません。かさかさとしたあぶらけのない顔。

雲霧の手がこくめいになで廻しても、その人間は一向さしつかえなく寝ています。まず輪郭をさぐッてみると、頭には髷がなく、総髪らしい形です。頬骨が高く、あぎとが出っ張って、並よりは長い顔の真ンなかに、段のついた羅馬鼻というようなのが、かすかな寝息を呼吸している。