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えどさんごくし

江戸三国志

吉川 英治

「報知新聞」報知社、1927(昭和2)年10月~終号未詳

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 577,271 字 · 1141 页

青空文庫

と、何処へ何しに行くのか分りませんが、お蝶は外に連れ出されました。

尾いて行くと、お角はお厩河岸を五、六丁ほど下って、鳥越川が大川に注ぎ出る丁字形の河岸縁に立ちどまりました。

川風が強く吹きつける川口には、土橋があって、枯れ柳があって、少し向うに砂利置場がある。ちょうど殺し場の書割りにでもありそうな所、歳の暮らしい、人通りもさッぱり稀です。

「――お蝶さんあぶないから、履物をおぬぎよ」

そこへ来るとお角はこう言って、自分も着物の裾を端折る。そして、お蝶が意外な顔をしてためらっている間に彼女は、砂利場の杭につないである綱を引いて、苫をかぶった一艘の小舟をぐいと岸へ寄せます。

「びっくりしているのかいお前さん。――大丈夫だよ、舟の中には、炬燵もあるし、お酒もある。こんな岡より、いくら暖かいか知れないんだよ」

手を取られて、苫の中に入りましたものの、お蝶は屋根の低い小舟の中の世帯をながめて、愈、腑に落ちない顔つきです。

お角は早速、中の炬燵の火をほじッて、蒲団のそばに酒を置き、あられもない手酌で飲みながら、

「呑気なものだよ、こうしていると。だからなかなか足が洗えないのさ」