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みやもとむさし

宮本武蔵(五)

吉川 英治

吉川英治『宮本武蔵(五)』。同一底本的分册已合并为一书。收入:宮本武蔵、宮本武蔵。

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 508,883 字 · 1017 页

青空文庫

岩の蔭、樹の蔭と、蜥蜴のように素迅く身を移しつつ、下り松の真上に当る高地まで来たのであった。

(ウム、いるな!)

そこからはさらに近々と、辻にかたまっている人影までが幽かに読まれた。ちょうど松の根元を中心にして、十人ほどの一塊りが、霧の下にじっと槍を立てている――

どうっ――と山巓からふき颪してくる暁闇の大気が、武蔵のからだへ雨かとばかり雫を落し、松のこずえや大竹藪を潮騒のように山裾へ翔けてゆく。

霧の下り松は、その傘枝を震わせて、なにか予感を、天地へ告げているようだった。

眼に見えた敵の数はわずかであるが、武蔵は、満山満地がみな敵の居場所に感じられた。すでに死界の中に来ている肌心地だった。手の甲まで鳥肌になっていた。呼吸はおそろしく深く静かに、足の指の爪までがもう戦闘しているのである。ジリジリと、一歩一歩にすすむ足の指が、掌の指にも劣らない力で、岩の間を攀じ登っていた。

――すぐ眼の前に、古い砦の址ででもあるような石垣があった。彼は岩山の腹を伝わって、その小高い地域へ出た。

見ると、麓の下り松のほうへむかって、石の鳥居がある。周囲は喬木と防風林でかこまれていた。