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もめんいぜんのこと

木綿以前の事

柳田 国男

木綿以前の事「女性」1924(大正13)年10月、何を着ていたか「斯民家庭」1911(明治44)年6月、昔風と当世風「彰風会講演」1928(昭和3)年3月、働く人の着物「旅と伝説」1936(昭和11)年7月、国民服の問題「被服」1939(昭和14)年5月、団子と昔話「ひだびと」1936(昭和11)年3月、餅と臼と擂鉢「社会経済史学」1934(昭和9)年1月、家の光「家の光」1926(大正15)年2月、囲炉俚談「文学」1935(昭和10)年3月、火吹竹のことなど「知性」1939(昭和14)年4月、女と煙草「ひだびと」1939(昭和14)年2月、酒の飲みようの変遷「改造」1939(昭和14)年2月、凡人文芸「短歌研究」1934(昭和9)年2月、古宇利島の物語「短歌民族」1933(昭和8)年5月、遊行女婦のこと「俳句研究」1934(昭和9)年4月、寡婦と農業「農業経済研究」1929(昭和4)年10月、山伏と島流し「俳句講座」1932(昭和7)年8月、生活の俳諧「第一高等学校講演」1937(昭和12)年12月、女性史学「実践女学校講演」1934(昭和9)年7月、女性史学「民間伝承」1936(昭和11)年3月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 177,586 字 · 348 页

青空文庫

紅をぼかしたうこん染めの、袷か何かをきょうは着ているというので、もう日数も経っているらしいから、これは不断着の新しい木綿着物であろう。次の附句は是を例の俳諧に変化させて、晴れた或る日の入日の頃に、月も出ていて空がまだ赤く、向こうから来る鑓と鑓持ちとが、その空を背景にくっきりと浮き出したような場面を描いて、「細工に染まる紅うこん」を受けてみたのである。またこれとは正に反対に、同じ恋の句でも寂しい扱い方をしたものが、『比佐古』の亀の甲の章にはある。

薄曇る日はどんみりと霜をれて     乙州

鉢いひ習ふ声の出かぬる       珍碩

染めてうき木綿袷のねずみ色      里東

撰りあまされて寒き明ぼの      探志

この一聯の前の二句は、初心の新発意が冬の日に町に出て托鉢をするのに、まだ馴れないので「はち/\」の声が思い切って出ない。何か仔細の有りそうな、もとは良家の青年らしく、折角染めた木綿の初袷を、色もあろうに鼠色に染めたと、若い身空で仏門に入ったあじきなさを歎じていると、後の附句ではすぐにこれをあの時代の、歌比丘尼の身すぎの哀れさに引移したのである。