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えどさんごくし
江戸三国志
吉川 英治
「報知新聞」報知社、1927(昭和2)年10月~終号未詳
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 577,271 字 · 1141 页
噛んでふくめるように説いて教えます。
かくしている間に、世間の松の内も過ぎた時分。
お蝶はこの頃になって、夜ごと、或いはどうかすると真昼にも、山屋敷の見廻りの隙を狙って、江戸の町へ出て行くようです。――しかし前と違って、明け方か、或いは二、三日目には、母を慕う子のように必ずヨハンの石牢へ帰って来ないことはありません。
変化双六
竹の柱に風呂敷ほどな布一枚の囲いでは、寒さを防ぐ足しにもならない。薄氷の張っている三味線堀から吹き上げて来る風にもふるえ上がッて、
「ええ、堅気は辛い、金の有難味が身に沁みるぞ」
と、算木のほこりを口で吹いて、ザラザラと筮竹の空鳴りをさせていた露店の主は、近ごろ古巣の江戸へ舞い戻って、三味線堀に長い顔をさらしている梅花堂流の馬春堂先生でした。
「閑ですな」
「亡者も初春は休みとみえる」
「餓鬼はすなわち吾々さ」
その辺の川ぞいには、同じ売卜者の露店が三、四軒、名ばかりの机をならべ、各※(二の字点、1-2-22)水洟をすすッていたので、自ら出る愚痴のつぶやきに、自ら答えて来る哀れな声があります。
ところへ、鼠木綿の宗服に尺八を持った二人づれの虚無僧が、今そこの前を通りぬけたかと思うと急に引っ返して来て、天蓋を被ったまま、馬春堂の机の前に立ち、