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えどさんごくし
江戸三国志
吉川 英治
「報知新聞」報知社、1927(昭和2)年10月~終号未詳
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 577,271 字 · 1141 页
「窮鳥ふところに入れば何とやらいうたとえもある、決して他言はしないから、どんな事か言ってみるがよい」
「私はほんとにその窮鳥なのよ。宗門役人には尾け狙われるし、世間の者はみんな仇のようだし、それに何より困るのは、楽々と寝る家がないことなの。……ねえ馬春堂さん、可哀そうだと思って、私を当分の間ここの家に泊めてくれない? ……その代りには、お金なら勝手を知っている切支丹屋敷の官庫から、幾らでも私が夜半に持ち出して来て上げるわ」
これは窮鳥どころか願ってもない鴨がかかって来たわい――と馬春堂は一も二もなく承知して、思わずその晩の酒を過ごしました。
率八が帰りに寄ってみた頃には、先生はもう他愛なく酔って醜態を究めております。ただお蝶と率八があまり仲よく話し込む時に、とろんと睨みつける嫉妬らしい眼だけは、多少本性にたがわぬところがないでもない。
思わずグッスリと寝込んで――その明くる朝。
「おや、お蝶は?」
と彼はムックリ起きに、何より先に家の中を見廻しました。しかし、馬春堂なるもの安んじて可なりであります、お蝶はこの家の世話女房になりすまして、小忠実に勝手で働いている。