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えどさんごくし
江戸三国志
吉川 英治
「報知新聞」報知社、1927(昭和2)年10月~終号未詳
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 577,271 字 · 1141 页
何はともあれ、彼は金吾と共に、その喜連格子を開けて、中に潜んだ優形の男を引きずり出そうと意気ぐみました。
しかし、そこにはもう誰も居ません。二坪ばかりの鞘堂の中には、魔術師の箱のように、優形の男が変ったかと思われる一体の石像が立っているばかりです。
「不思議な」
茫然と、二人は顔を見合せて、
「居ない」
と、さらに言葉を同時にしました。
「たしかに、この堂の内へ逃げ込んだと見たが、金吾、そちの眼にはどう見えた」
「拙者も、確とそう認めましたが」
「おらんとは不思議千万、もしや……」と天井から床板へひとみを落とした時、万太郎はハッと足をひらいて、
「ここだ! 床を上げて見い」
「オオ」と膝を折った金吾が、喜連格子を洩れる月光に、よくよくそこをすかしてみると堂の一隅の床板が一枚、こころもち浮いています。
ぽんと、その床板を払って見ると、縁の底へ落ち込んでいる石段らしいものが見える。さてはと、二人はそれへ降りて行きます。――ふた段、五ツ段……十二、三段、存外に深いなと思いながら、とにかく手さぐりで一歩一歩と降りてゆきますと、やっと、地に足が着くまでにはおよそ二十四、五歩の階段を下りました。