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えどさんごくし
江戸三国志
吉川 英治
「報知新聞」報知社、1927(昭和2)年10月~終号未詳
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 577,271 字 · 1141 页
ヨハンがいった人参畑――、継ぎ合せた樟板の絵図によって明確に教えられたピオの遺蹟はそこの血塚!
場所が分っても、その地底を見るには、幾尺の土を掘る努力がいるだろうとか、または、ピオの遺物死体があった場合も、それが石棺にはいっていたらどうしようとか、そんな場合の第二策は、彼女の念頭にありません。
「夜光の短刀は、もうわたしのものだ!」
歓喜のほかは何ものもない、希望のほかに何物も持たない、一念一途のお蝶であります。
その懸命は彼女をして、彼女が生れて初めて知る、熱と大胆をもたせました。
パリッと響いたのは枯木の柵です、いつもは息さえ殺して歩くのに、もう、夜光の短刀はあそこにある、余人に先を越されてはならない、そういう性急に張りつめているお蝶は、美しい猛獣のように、何ものも破る勢いで、一瞬の刻をもそこへ焦心ッたのです。
「――攫われてなろうか、夜光の短刀。ここまで事を漕ぎつけて来ながら、日本左衛門ともあろうものが、お蝶のような小娘ずれに、横奪りされたと言われちゃあ、末世末代、緑林仲間の笑われぐさ」
彼はさすがに音もさせず、柵を躍って越えますと、すばやく薬草畑を走って、榛の木蔭へ身を入れました。