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えどさんごくし
江戸三国志
吉川 英治
「報知新聞」報知社、1927(昭和2)年10月~終号未詳
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 577,271 字 · 1141 页
「ほう、紛失物? ……また、御家来の安否とな……それは御心配なことで、イヤ、よろしい」
と馬春堂。
売卜先生は型の如く、早速、筮竹をとりあげて一本を端へのぞき、四十九本をザラリと押しもんで扇形にひらくと、思念の眼を伏せて額にあて、伏義文王周公の呪文をぶつぶつ念じ出しましたが、するとそこへ、
「――お待ち遠さま」
うしろの日月の幕の間から、顔を出したそば屋の出前持ち、けんどん箱の中からあたたかそうな丼一個と、風邪の一服ぐすりとを取り出して隅の方へおき、客と見てそのまま首を引っ込めました。
パチ、パチ、パチ、パチ……
略筮を立てて算木をかえし、馬春堂はうしろへ忍びこんだうどん掛けが、あたら冷えることを頭の一部で惜しんでいる。
万太郎は床几をすり寄せて、
「卦面はなんと出ましたな」
「さらば……」と馬春堂、しかつめらしく机をにらんで、
「ウウム、お案じなさることはあるまい、凶兆はあるが、また一道の吉兆も見える」
「では、家来金吾の身にも、まだ別状はござらぬな」
「いいや、そうもいえませぬて。つらつら卦面によって判じますに、こりゃその人が婦女の術中に墜ちて苦しまれている。