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えどさんごくし

江戸三国志

吉川 英治

「報知新聞」報知社、1927(昭和2)年10月~終号未詳

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 577,271 字 · 1141 页

青空文庫

「気を廻すにゃおよばねえ、そんなに造作のない物なら、あのばてれん口書を持っていた徳川万太郎が、とうの昔にどうかしていら」

「何しろ、でかい騒動になったものだ」

「どうして」

「夜光の短刀のことを知っているのは、その万太郎と日本左衛門と――それからお前におれというわけだ」

「ウム、腕にかけても、伊兵衛がきっと探し当てて見せる」

「そう問屋で卸してくれれば、おれもお前も一躍して百万長者だが」

「何より頼りになる、あのばてれん口書がこッちの手に這入っているのが強味じゃねえか、心配するな。オオ早くあれを出してくンな」

「伊兵衛、おれも一緒に出かけよう」

「どこへ?」

「どこへでもいいやな。お前の行くがままに尾いて、夜光の短刀を探す旅をして廻ろうじゃないか。もう馬鹿馬鹿しくって、この寒い野天の空ッ風にふるえながら、待ち人や縁談の亡者を相手にしちゃいられなくなった」

「そいつもよかろう、じゃその簓と四角い木だけを背中へ背負いこみねえ」

「お手のものの道具で旅易者か」

「おれが食えなくなった時は、途中でチョイチョイやって貰うことにするぜ」

「こいつは助からない役廻りだ」

にわかに、幕や机や空き箱などを片づけて、伊兵衛も共に手助いながら、野天の世帯はまたたくうちに畳まれる。