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えどさんごくし

江戸三国志

吉川 英治

「報知新聞」報知社、1927(昭和2)年10月~終号未詳

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 577,271 字 · 1141 页

青空文庫

ドッチが悪戯だか考えてみてくれ」

なるほど、いわれてみれば、その通りです。

ここでも一ツどじをやって、馬春堂はまた気が腐って来そうになりましたが、まず伊兵衛が帰って来れば多少景気もつこうというものと、

「おい、風呂へ行かないか」

「おれは少し気が急いているんだが」

「今、宿へ着いたばかりじゃないか」

「ウム、まアいい……」と、伊兵衛は何か考えていたがクルクルと脚絆を解いて、

「じゃ、つき合おう」

豆絞りの手ぬぐいを袖口にぶらさげる。

そして廊下へ出て行きますと、先に出た馬春堂が、何か奇妙な虫でもに見付けたような顔をして、入口の長押に眉をしかめているので、

「何を見ているんだい?」

と自分もそこを見上げますと、勘亭張りの読みにくい文字の上に、一個の人間の眼が描いてある千社札――それが斜めにピタリとはりつけてある。

なんの魔除けだろう。どれ、あれよ。ありゃ千社札さ。フーム客がいたずらしたんだな。なにさ納札の連中ときたら空きがあると人の顔にでもはりかねない。そいつはやッけえな代物だ。まったく。するとこれなんぞはきっと眼医者の納札気狂いかも知れないぞ。なるほど。胡麻の蠅のまじないにもなりそうだな、道中師には利き目があるめえ、あはははは。