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えどさんごくし

江戸三国志

吉川 英治

「報知新聞」報知社、1927(昭和2)年10月~終号未詳

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 577,271 字 · 1141 页

青空文庫

に駆け出しました。

さえずくもらず、夜は今もなお、宵のとおりな朧です。いちめん、水銀をなすッたような果てへ向って、畑の土をカッ飛ばしながら無二無三に逃げてゆく道中師の伊兵衛の姿――

やがてまた、それを追っかけてゆく目明しの釘勘と、徳川万太郎の影が――見ているうちに、遠くなり、小さくなり、うすくなって、果ては、その夜霞の底に、江戸川の流れと関口の人家の燈が、チラ、チラと見えるほか、何物もなく何らの音もない、真に寂としたおぼろおぼろの夜と帰しました。

野となれ山となれ。

あとの石神堂は開けッ放し。

いかに何でもこれはひどい。まるで、賽銭泥棒が荒して行ったあとのようです。霊あらば石神様の御機嫌とても、易々このままでは納まりますまい。

だがしかし、あしたにでもなれば、例のごとくこの無名神を、神か仏かのけじめもなく、ただおそれあがめている土着の人たちが発見して、あら勿体なやと、戸締りをなおし、賽銭箱の位置も正すでありましょう。

ところが、それにも及ばないようです。それから半刻ともたたないうち、喜連格子はちゃんと閉まって、元の通り、ここに何の異常も認められなくなっている。