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えどさんごくし
江戸三国志
吉川 英治
「報知新聞」報知社、1927(昭和2)年10月~終号未詳
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 577,271 字 · 1141 页
「まさか? ……」
と、つぶやきました。
かれの如き人間の推測でも、お蝶が現在の親を殺して逃げたとは考えられないことであります。
わたしは若い、十九やそこら。
十九やそこらで私は死にたくない。どんな思いをしても生きのびていたい!
――お蝶の生の執着は、今、なにもかも忘れて家から迷いだしたのであります。
逃げる気でしょう。
この山屋敷をのがれて、どこかに新しい生き場所を求めるつもりらしいが、ふだんの才智なら、化粧をととのえて、表門からぬけ出すでしょうに、ここへ来て、うろうろと高い塀を見あげているさまを見ると、さすがに彼女も、父の血を浴びたせつな、心を取乱してしまったとみえます。
「お蝶さん、どこへ行く?」
すると、どこかで咎めるものがありました。
「また今時分、どこへ出て行こうとするつもりか」
「ヨハン」
きっと、榎の下を振顧って、お蝶はしばらく立ち竦みましたが、さっき父のいったことばが思い出されると共に、
「ヨハン!」
むらむらとして、石牢の前へ馳けよりました。
「おお、どうしたのか、そんな姿をして」
「あの」
赤いくちびるを鉄の格子につけて、
「あのね」
「ム」