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えどさんごくし

江戸三国志

吉川 英治

「報知新聞」報知社、1927(昭和2)年10月~終号未詳

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 577,271 字 · 1141 页

青空文庫

バラッと、あたりへ撒かれた鶏血草の種子、伊兵衛の襟にもこぼれました。

――お蝶は倒れます。

落花は繽紛、その時、一風吹きて。

「おさらば、もう山屋敷に用はねえ」

伊兵衛はこういって、豆絞りの上から、フワリと合羽を引きかぶり、一目散にかけ出しましたが、行くこと数歩。

あッ。ドたッ――という音。

見ると、竿でハタキ落とされた蝙蝠みたいに、伊兵衛が大地へ投げられています。元より体に伸びちぢみのある男ですから、そこで鼻血を出してヘタばるようなことはなく、咄嗟に、ぱっとまたハネ起きましたが、時やおそし八方から一時にあらわれた黒衣の群。

「渡せ」

「今のを出せ」

「うぬ、いやとはいわせねえぞ」

ギラギラッと端の方から一斉に抜きつれると、たちまちそこに輪をつくる剣の歯車、伊兵衛の体は心棒の位置に置かれています。

「ふざけるな」

と、伊兵衛は笑って、

「てめえたちは、日本左衛門の手下だろう、御苦労様なやつらだ。この間うちからの張込みで、さだめし足に痺れをきらしたろうから、おれが風を吹かして送ってやる」

いきなり、着ていた合羽を両手にしぼると、それをつかんで縦横無尽です、蚊でもハタくように振廻してゆく。