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えどさんごくし
江戸三国志
吉川 英治
「報知新聞」報知社、1927(昭和2)年10月~終号未詳
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 577,271 字 · 1141 页
――なぜお屋敷へ帰らないのか、どうして、お粂なんて女とああして逃げかくれなすっているのか。……といってみたところで、元より女の沙汰というやつは、他人に判じがつかないもの、ハタからおせッかいのできないものと、昔から色恋の相場はきまっておりますけれども、それにしても相手によりけりで、丹頂のお粂が何者かという事は、聖天の市へ行く途中でも、たしかあっしの口からよくお話がしてあるはずじゃございませんか」
ぼつぼつ彼のことばはいわんとするところへ向って来ました。
その語調は至って平静でありますが、すぱすぱと味もなく吸う煙草の火のかすかな光で見れば、釘勘の目は涙でいっぱい。
「ええ、相良さん」
返事のないのにじれ出して、
「どうしたもんでございます!」
「…………」
古木の切株に腰かけて、われながら痩せたと思う膝をかかえた相良金吾は、どういう縁でか、こうも自分をいとしんでくれる釘勘のことばにいよいよ面を上げ得ません。
けれどまた釘勘の察し方もすこし情けない。大きな誤解がある。自分がお粂の色香に迷ってこうなったものと思いこんでいる独り合点がある。
今さら言い訳がましいことは、彼の性格としても潔しとしませんが、それだけはどうしても解いておかなければと、