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えどさんごくし
江戸三国志
吉川 英治
「報知新聞」報知社、1927(昭和2)年10月~終号未詳
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 577,271 字 · 1141 页
黒ッぽいみじん縞の袷に石帯を固くしめ、片手をふところにして丸腰、弾力のある小肥りな肉じまりに、三十前後の風貌をあらわしてはいますが、市井遊侠のばちびんとも見えず、そうかといって堅気らしくも思われません。
そこへ来ると金吾の前に、カッチリした物腰で頭を下げて、
「お迎えにやったのは手前でございます。何か使いの奴が、不作法なことを申し上げたようですが、どうか御立腹なく」
と、この方はまたすこぶる尋常な応対なので、金吾も今さら大人気ないことに自ら恥じながら、
「おお、拙者を呼び止めたのは、其方のさしずか」
「左様でございます。突然、お後をつけさせたりして、まことに失礼でございますが」
「して、そちは」
「初めてお目にかかります。私は、釘抜きの勘次郎と申しますもので、そいつをちぢめて、釘勘というのが通り名になっている目明しでございます」
「ウーム、目明しと申すと、奉行手先の御用ききだな」
「御信用下さいまし」
と、釘勘は、片手を袂に落としてその袖口から、十手の端をチラと見せる。朱房でなく紺房の十手であるところから察しると、南の手先で、かなりの岡ッ引を部屋に飼っている古顔の密偵とみえました。