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えどさんごくし
江戸三国志
吉川 英治
「報知新聞」報知社、1927(昭和2)年10月~終号未詳
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 577,271 字 · 1141 页
率八はホウホウのていで、腰や懐をなでながら怖々とあたりを見廻し、何か落とし物に未練を残しておりましたが、万太郎の眼がジッと向いているので、
「さようなら」
と、思い出したようにお辞儀をして、ひょこひょこ歩きかけました、
すると万太郎はまた、
「あ、これこれ、率八とやら」
呼び止めると、もう沢山な顔をしながら、
「ハイ」
と、情けない返辞をする。
「率八」
「ハ、ハイ」
「貴様は所詮、盗人の中で出世のできそうな奴ではないの」
「左様でございましょうか」
「なんで泥棒になった」
「わかりません」
「どうして日本左衛門の手下などになったかとたずねるのじゃ」
「いつか、お金を恵んでもらいました。それで、恩返しに、泥棒になったようなわけで」
「ふびんな奴じゃ……」
「ど、どういたしまして」
「改心して真人間になれ! よ! 貴様には女房や子もあると、最前申していたようだが」
「きッと、家に待っているでしょうよ。何しろ、お正月から帰りませんでね」
「早く足を洗うがよい」
「食べることができますかしら」
「これをやる」
「え」
「これをやるから持ってゆけ」
「へ? ……」
「遣わすというのじゃ、遠慮するな」