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えどさんごくし

江戸三国志

吉川 英治

「報知新聞」報知社、1927(昭和2)年10月~終号未詳

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 577,271 字 · 1141 页

青空文庫

なんて来た調子は、すでに御臨終に駆けつけながら、あわよくばの気じゃあないか。

(だがと、待てよ……)万太郎の空想はそこで止め途もなくなりました。

――あの自分と同年ぐらいな、しかも、家柄も何もかも似ている吉宗が、一躍、八代将軍家となって、小マシャクレた朝令暮改なんかをやり出すと、この万太郎も少し癪にさわらないかしら。

将軍家にすわることなんかは願い下げにしたい自分なのだが、吉宗が大統をうけて天下にのぞむとなると、自分も少し、何か、して見せなければ男が立たない。

尾張の七男坊とは竹馬の友じゃに依ってなどと、辺僻な山国の二万石や三万石を有難く頂戴してもおられまいではないか。

――こう考えているうちに、万太郎の仰ぎ見つめていた天井の木目が、満々たる大洋の水となってまいりました。そして漠々たる雲と海とのあなたに異国羅馬の都府や沿岸が美わしく霞んでみえましたが、それは空想か夢だったのか、自分でもけじめのつかないうちに、彼はもういつの間にかスヤスヤと深い寝息になっています……。

と――その翌日。

かれは起きるが早いか、丁字風呂を出て、今日はハッキリとした目的のあるものの如く、音羽を経て、目白の台へスタスタと上ってゆく。