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えどさんごくし
江戸三国志
吉川 英治
「報知新聞」報知社、1927(昭和2)年10月~終号未詳
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 577,271 字 · 1141 页
「ほほウ……およろこび事か」
「左様。永らくお留守であったお嬢様が、久しぶりで今日あたりはお帰りになるはず」
「どちらへ行っておられたので」
「熱海へ御保養に」
「じゃあ、御病身とみえる」
「至って御丈夫に見えますが、どうも御当家のお血統には、代々、女の方が夭折と極まっているので、御隠家様にはそれのみが御心痛なので」
「ふうん……女が夭折の血統? ……するとつまり、何か、遺伝とやら申して、よくない病気が伝わっているものに違いない。やれやれ」
と馬春堂は、いつかお酌を待たず手酌になって、ここでまたチビリ、チビリと杯を重ねてから、
「御当家の息女とあれば、さだめし美人でいらっしゃいましょうな」
「お美しいことも代々でござります。これで御病気の遺伝がなければ申し分はないが、世の中はままにならぬもので」
「しかし夭折と言っても、およそお幾つぐらいまでは? ……」
「たいがい、二十四、五歳におなり遊ばすと、枯れるが如く亡くなられる。それが、系図を拝見しても、狛家数十代の間、連綿と、判で押したようですから不思議でござる」
「当狛家という家柄は、そんなにお古い系図かな?」
「大して古いという程でもないが、今よりザッと一千年前の霊亀年間から、この武蔵野にお住居なされておる」