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えどさんごくし
江戸三国志
吉川 英治
「報知新聞」報知社、1927(昭和2)年10月~終号未詳
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 577,271 字 · 1141 页
「ははあ、ピオの遺物でございますか」
「中にピオが日本で耶蘇会堂を建てた時の用意として、蛮書や漢書から写し取っておいたものと思わるる病者救治の秘方が一冊あって、何気なく、その漢訳されている個所だけを拾い読みしてまいると、偶然、癆必治の処方が立派に記されてあるではないか」
「な、なるほど!」
と、久米之丞は、ここで月江の病気と結びつく話の前提だったのかと、にわかに生き生きした調子でうなずきました。
「して、その薬法はどういう秘伝でございますか」
「人の胆血を根本とする」
「胆血?」
「わかりよく申せば人間の生き胆。――それへピオがまたこう書き添えてあるのじゃ」
「ふム」
「――漢方の胆血に加うるに、余のもてる鶏血草の根を以てせば、この地にて癆※(「やまいだれ+亥」、第3水準1-88-46)と呼ぶ肺器の病はいえざることなし――と」
「しかし御隠家様、鶏血草などと申す植物が、この日本にありましょうか」
「ある!」
「拙者は初めて耳にいたしますが」
「今もいったとおり、それにピオが、余の持てる鶏血草の――と書いている。してみればかれがその薬草の種を日本へ持って来たことは明らかなわけではないか」