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えどさんごくし

江戸三国志

吉川 英治

「報知新聞」報知社、1927(昭和2)年10月~終号未詳

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 577,271 字 · 1141 页

青空文庫

裏はすぐに隅田川の満々とした水で、

「よしきた。合図はしてやるが、親方、手配はずいぶん大丈夫だろうね」と、そこから、不安そうに釘勘を振向いて、念を押すのを、

「うむ、済んでいる。大丈夫だから、安心しねえ」と、釘勘がくり返します。

「しかたがなしに、仲間の者を裏切るのだが、もしこれがヘタなことになると、こッちの命があぶねえからの」

「あとはお上でお前の体を守ってやるから、心配しねえがいい。おお、何しろ早く合図をしてくれ」

「へい」

と、おやじは、なかば不承不承に、裏の水ぎわから河岸つづきの竹林をのぞんで、何か、指合図をしております。竹林といっても、それは叢々とした樹林ではなく、丸太林を交ぜた大きな材木屋の青々とした竹蔵です。

その間に、金吾はつれの方へ向って、

「釘勘」と、小声に、

「へい」

「あの今戸焼の老人もやはり盗賊なのか」

「なあに、あれは善人です。ただ幾らかの口止めをもらって、市の時には、ここで見張りをしている奴なので」

「その方の指図にしろ、よくその口止めを破ったものだな」

「可哀そうですが、先にあのおやじの娘をアゲておいて、そいつを責め道具に仲間を裏切りさせたわけ。