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えどさんごくし

江戸三国志

吉川 英治

「報知新聞」報知社、1927(昭和2)年10月~終号未詳

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 577,271 字 · 1141 页

青空文庫

と、しゃがれ声で女房へ怒鳴って、鞴のまわりや土間いッぱいの仕事道具を、カチャカチャ片づけ初めました。

その忙しさと物音にまぎれて、半五郎もお常も気がつきませんでしたが、女影の里の迷路をグルグル駆け廻って、ここへ馬蹄を飛ばして来た四、五騎の郷士、

「半五郎おるか!」

と、鍛冶小屋の前で手綱を投げるや否、馬の背から飛び下りて、ドヤドヤと土間の内へ這入ッて来る。

「あ――これは高麗村の衆」

と半五郎、あっけにとられながら、

「みな様おそろいで、しかも騎馬立ち、何か変った事でも起りましたんで?」

「ウム、実は御隠家様のお屋敷を騒がして、この方角へ逃げ出した奴があるのだが……」と、うす暗い仕事場を見廻してギョロギョロしていたのは、先に立って来た関久米之丞でありました。

「――一人は総髪、一人は合羽、遊び人ていの男と売卜者風のふたり連れじゃ。もしやこの家へ逃げ込んで来はしないか? そんな人間が」

「さアてね……」

と、半五郎は腰骨をたたきながら、

「ついぞそんな者は、この辺で見かけたこともなし、訪ねても来なかったようです」

「これ、隠すとそちの為にならんぞ」

「なんで、わしが」