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えどさんごくし
江戸三国志
吉川 英治
「報知新聞」報知社、1927(昭和2)年10月~終号未詳
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 577,271 字 · 1141 页
秦野屋が土手へ上がッてみると、そこに待つ者がありました。最前から暗に火繩を振って、日本左衛門と金右衛門に合図を送っていた男。
「そろっているか」
「みんなお待ち申しております」
三人は黙って男のみちびく後について行きます。
そこは多分、社家の粉場と呼ぶ所でしょう。河原口から疏通て来る数条の引き水が流れ、流れに添って、四、五軒の水車小屋がかたまッている。
ボッと薄赤い明り――その水車場の裏手でした。シンと鳴りをしずめていた人間の顔が、二十か三十か一斉に足音へ振顧る。
「あ、親分」
どろどろと立ち乱れると、無言のうちに整然と、それへ来て腰かけた三名を要にして、扇形に坐り流れる。
見ますと。
そこに集合していた人間は、一列一体に、渋色の巻頭巾、わらじ脚絆、「めざまし草」の箱胴乱をかけた姿で、みなこれ、同業同色のたばこ売りでありましたから、九兵衛もいささか驚いて、いつのまに、こんな出店がふえたろうかと呆れている。
「頭数は?」
と、やがて日本左衛門のことば。
「三十四人です」
答えた声は雲霧らしい。
「この中に、率八が居ねえようだが……」
日本左衛門は、少し不機嫌に、