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えどさんごくし

江戸三国志

吉川 英治

「報知新聞」報知社、1927(昭和2)年10月~終号未詳

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 577,271 字 · 1141 页

青空文庫

「一丁!」

「一丁三ッ」

「幾巻あるんだ?」

「五本」

「よし、オヤ指、一手で抱いた」

「次!」と、札を落す。「――奥ジマ十反、潮かぶりは一反もない上物だ」

「唐桟、唐桟」

指が出る。糶声がとぶ。

引ッたくるように誰かがうける。とすぐに次! 次! 次! と順々に出る品物は、南京どんす幾巻、鼈甲何斤、皮、短銃、麝香、さまざまな異国品ばかりが一頻りけいず買いの欲心を血走らせる。それは皆、抜け買いのともがらが、禁制を犯して、海からもち込んだ物でありましょう。

中でも、あばき合いで糶上げられたのは、阿片、魔薬、毒のたぐい、紫ギヤマンの瓶や黒い薬塊を見ると、けいず買いどもは、肉を争奪する獣のように、仲間争いをして引きこみます。この魅力、かれらの緊張ぶりをみると、それをまた強く要求している半面の社会というものが、当時江戸のどこかにも伏在していたに違いはなく、金吾は浅ましさに一種の悪酔をおぼえながら、思わず耳を掩い、それらの物の消化されてゆく社会の健康におののきを感じていました。

そのうちに、

「地だぜ!」

と叫ぶと、地物、地物、とガヤガヤどよめくうちに、糶場の手が変わっている。